高コンテキスト文化において記号のやりとりをする上で、 恣意性や意味をどのように補足しているのか ー会話におけるコンテキストの役割ー

1.はじめに

 言語記号には恣意性があり、想起される意味には個人差がある。にも関わらず我々は母語話者同士の会話は成立すると期待し、記号のやりとりを試みている。拙稿では恣意性や意味の差異の補足方法について検討する。

 

2.言語記号の恣意性と意味

 

「何らかの共通の意味を音や図形など、人間が知覚できる表象を用いて伝達する手段を記号(sign)と呼びます。音によって意味(事柄)を伝達するのが言語ですから、言語も記 号の一種だと言えます。スイス言語学者ソシュール(Ferdinand de Saussure)は、 記号を構成する要素のうち、意味をシニフィエ(signifié)(所記、記号内容)、音や図形などをシニフィアン(signifiant)(能記、記号表現)と呼びました。」佐久間(2004 p1)

「記号が表す意味(シニフィエ)が事柄という抽象的なものであるのに対し、シニフィアンの部分は音や図形という具体的なものですから、シニフィエシニフィアンの間には何 の関係もないのが普通です。記号のシニフィエシニフィアンの間に関係がないという性質を恣意性(arbitrariness)と呼びます。」佐久間(2004 p2)

「記号としての言語についても、シニフィエである意味とシニフィアンである音の間には 何の関係もありません。言語記号に恣意性があることから来る最も重要な特性は、文がいくつかの単語に分かれることです。」佐久間(2004 p2)

以上の引用から、我々は恣意性のある記号でやりとりを行ない、恣意性を補うために単語を繋げて文を作っているということがわかる。

神田(2023 p1)は「意味には外延的意味denotative meaning定義に属するものと、 内包的意味connotative meaning個人的印象がある。特に母語話者は内包的意味を理解している。内包的意味の中には個人的主観がある。」と述べている。

 

上記のことから、言語記号と音声には恣意性があり、そこから表象される意味は定義的な意味だけでなく、個人的主観が含まれることがわかる。

言語の恣意性と意味理解の個人差があるにも関わらず、会話による理解を試みるのはなぜだろうか。

 

 

3.会話相手と全く同じ経験をしているわけではないのに会話は成立しているのだろうか

 

コミュニケーションが行われる時の物理的環境・対人関係状況・心理的状態などを全て含めて「コンテキスト」という。大橋(2019 p18)

『コミュニケーション学入門』で大橋(2019 pp95-96)は以下のように述べている。

 

考えていることの多くを言語メッセージで表現せず、コンテキストへの依存度が高いコミュニケーションスタイルのことを「高コンテキストコミュニケーション」といい、そのようなスタイルが多く用いられる文化(日本など)のことを「高コンテキスト文化」と言う。(中略)高コンテキストコミュニケーションが成り立つための必須条件はコミュニケーションに関わる人たちの間でコンテキストが共有されているということである。相手がどのように考えているかを自分が分かっているという自信がない限り、その理解に依存した形でのコミュニケーションはできない。

 

また、同書で大橋(2019 p86)は次のように述べている。

「言語を用いて表現するに当たっては、メッセージを形作る「表現」と、そのメッセージ が届いた相手が行う「解釈」とが100%一致することは原理的に有り得ないのである。」

上記の事実から、高コンテキスト文化では、会話相手との表象の違いはコンテキストに よって補われると期待していることがわかる。したがって会話は意味解釈の一致よりも、 コンテキストを考慮する気持ちにより成立しているように考えられる。

 

 

4.おわりに

 

拙稿では、高コンテキスト文化での会話は文章の明示性よりも、コンテキストを慮る気持ちによって成立しする、ということが明らかになった。言語記号によるコミュニケー ションで、実際にやりとりしているのは言語的意味ではなく、コンテキストに含まれる部分であるのかもしれない。

今後は入門書以上の書籍を参考にしながら言語について研究を深めていくことが課題である。言語の恣意性や表象に関する知識を広げていき、相互理解を促進したい。

 

 

引用文献

佐久間淳一 加藤重広 町田健 2004『言語学入門』 株式会社研究社 pp1-2

大橋理恵 根橋玲子 2019 『コミュニケーション学入門』 一般財団法人 放送大学教 育振興会 p18、pp86、pp95-96

神田和幸 2023 意味は受け手が構築するー古典的意味論の再構築ー (https:// www.jstage.jst.go.jp/article/sca/5/1/5_sca2022.04/_article/-char/ja/)p1 閲覧 日:2023/07/10

 

 

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